ホーム アクセシビリティについて

医療機関が推進する
アクセシビリティ

アクセシビリティについて

ASCを統括する高尾洋之(東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部 准教授)が考えるアクセシビリティの現状と思いについて紹介します。高尾自身が2018年に重度のギランバレー症候群という病気になり手足はまったく動かず、呼吸器がついていたため声も出せない状況から、様々なサポートを受ける中、アクセシビリティに出会った事で再び社会との繋がりを持てるようになった経験を背景にASCではアクセシビリティに取り組んでいきます。

脳外科医

高尾洋之

医学博士

東京慈恵会医科大学
先端医療情報技術研究部 准教授

デジタル庁
アクセシビリティ担当 プロジェクトマネージャー

アクセシビリティ アクセシビリティ アクセシビリティ アクセシビリティ アクセシビリティ アクセシビリティ

アクセシビリティとは?

「アクセシビリティ」というと、日本では「情報アクセシビリティ」という言葉がまず広く使われてきました。情報通信機器の目覚ましい普及で、インターネットを通じて提供される情報やサービスは日に日に増えています。その中で、インターネットを使えるか使えないかで情報格差が生まれないように、情報へのアクセスのしやすさを意味する「情報アクセシビリティ」が注目されたというわけです。その中でも特に「ウェブアクセシビリティ」と呼ばれる、ホームページの見やすさへの配慮については比較的普及していると言えるでしょう。業界団体や政府によるガイドライン策定が進み、それらに従って、自治体や企業によって様々な工夫がなされています。例えば、本文の読み上げ機能をホームページにつける取り組みは、視覚障害のある方への配慮の一例です。ですので、こういった取り組みは「障害者向け対応」の一環と思われている方も多いようです。

アクセシビリティ =「障害者対応」ではない

しかし、ここで少し考えてみましょう。障害は病気ではありません。だから障害を病気のようにとらえて「治療」しようとするのは実態を正しく捉えていません。そのような捉え方ではなく、障害のある方とどのように付き合って暮らしていくか、そのためのツールを一緒にどう作り使っていくかを考えることこそが、求められることだと思います。

「不便」は「不幸」なのか?

「アクセシビリティ」という考え方のない価値観だと、人々の様々な障害は「不便であり不幸」です。一見この2つの言葉は不可分で正しいかのように思えます。しかし私自身も病気をして実感しましたが、そんなことは決してありません。不便であることが解消できないと勝手に思い込み、当事者も周囲の人も諦める、あるいは諦めさせることが不幸を生んでいるのです。実際、目が見えなくてもそれほど不便を感じていない人もいれば、目が見えていても不便を感じる人もいます。世の中にはいろんな人がいて、いろんなケースがあります。まだ認識されていないことも多くあります。

例えば、あるときに決めた「誰かの行動をしやすくする対応」が、別のあるときには他の人の行動を難しくすることが、これまでもよく起きています。目が見えない方のための点字ブロックが車椅子の走行やすり足で歩く人にはじゃまになる、車椅子が通りやすい広い空間が歩く距離が増えて老人には辛い、といったこともよく言われることです。しかし、どちらも悪気があって進めてきたことではありません。お互いに困っている人を気遣うという意識があれば、これまでとは違った対応策が見えてくるかもしれません。

障害者、健常者関係なく全ての人が、不便であることを不幸にせず、マネージメントする方法を考える。これがアクセシビリティの基本なのです。


髙尾洋之 編著『闘病した医師からの提言 iPadがあなたの生活をより良くする』,日経BP,2022年6月,P10-P11